レポート
2025.10.12

港町の漁具の価値とは? 「プロジェッティスタ」から考える

みなさんこんにちは、海と日本プロジェクトinふくしま、リポーターの小松です。いわき市の港町、中之作地区で、先日、イタリア在住のデザイン研究者、多木陽介さんの講演が行われました。地域内外でまちづくりなどに関わる人たちが来場。港町の文化や暮らし、道具、生業について話し合いながら、イタリアにおけるデザインの考え方を学びました。

講演イベントの会場となったのは、中之作に今年オープンしたゲストハウス「enoto」。民家を改装・リノベーションして完成したゲストハウスで、東京から移住した谷口太郎さんが運営しています。多木さんのトークは、この「enoto」の和室で開催されました。

多木さんは、第二次世界大戦後のイタリアで、デザインという言葉が生まれる前にデザイン活動をしていた「プロジェッティスタ」と呼ばれる人たちを研究し、執筆活動などを行なっています。プロジェッティスタとは、「プロジェクトを最初から最後まで全部やる人」を指し、単なる物のデザインだけでなく、地域づくりや教育、福祉など幅広い分野で活動しました。

多木さんは、プロジェッティスタが、消費社会に流されることなく、人間的な創造性や生活の質を重視していたことに触れ、加速的に技術が発展していく現代だからこそ、物事を深く観察し、人間的な繋がりを大切にしながら創造活動を行うことが重要だと語っていました。

暮らしの道具に見えるデザイン

  1. 中之作地区内の倉庫に保存されている漁具の数々
  2. 漁具の保存活動を続けている野村史絵波さん
  3. プロジェッティスタについて語った多木陽介さん

公演に先立ち、多木さんは、いわき市の港町、江名地区の地域おこし教育隊で、漁具の保存活動をしている野村史絵波さんらと中之作地区内を散策。漁具が保存する倉庫にも足を運びました。

私もそれに同行し、いくつか漁具を見させていただきましたが、改めて古漁具のすばらしさを実感しました。どの道具も、デジタル機器はついていませんし、AIの知恵を借りるわけでもない。道具自体が美しく、機能的でもあり、道具が発明された時代の作り手の創造力の豊さに気付かされます。

長く使い続けることができる漁具は、どれも控えめです。魚群探知機のような器具はありませんでしたから、「獲りすぎる」ということもなかった(それほど効率良くは獲れなかった)と思いますし、道具自体が、持続可能な素材から作られていて、環境に負荷をかけない。道具も、漁法も、獲り過ぎないようにつくられていることが感じられます。

多木さんは、まさにそんな「控えめ」な創造力こそが、プロジェッティスタの哲学につながるものであり、これからの時代に必要な考え方ではないかと話をされていました。多木さんとの対話の時間は、立ち止まって考え、どうすれば目の前の人がその人らしく輝けるかを控えめに考え、控えめにデザインすることの大切さについて再確認する時間となりました。

道具を見ていると、この道具の作り手たちこそ、まさに「プロジェッティスタ」だったのだろうと思わされます。そして、漁具が保存されていたからこそ、巷にあふれる「デザイン」という言葉を振り返ることができたのだと考えると、漁具を保存するという野村さんの活動自体が、プロジェッティスタ的だと考えることもできそうです。

港町の文化や暮らしを考えるきっかけをくださった、野村さん、そして多木さん、ありがとうございました!

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