筑波大生現地調査レポ5 請戸漁港――空白の6年をこえて

2018-8-16
海と日本PROJECT in ふくしま

 

今年、海と日本プロジェクト in ふくしまでは、福島の海の復興の現状や風評被害について現地調査を行う、筑波大学社会学類・五十嵐泰正ゼミとコラボ。学生目線で、そのリサーチ結果や感想をレポートしてもらう連載企画をスタートします。初めて福島の海を訪れる学生たち。福島の海は、彼らの目にどのように映るのか。これからの「海づくり」の参考にすべく、長期的に連載していきます。

 

筑波大生現地調査レポ vol.5 

請戸漁港――空白の6年をこえて

みなさん、こんにちは。筑波大学社会・国際学群社会学類の山本です。私たちは7月23日(月) に浪江町の請戸漁港を訪れました。今回は請戸漁港の現状と、震災後初めて被災地を訪れた私 が感じた思いについてお伝えしたいと思います。

 

−震災前と震災後の請戸漁港

請戸漁港は福島第一原発から約6キロ北の太平洋岸に位置しています。震災前の漁港の利用は 、地元船がほとんどでしたが、県外船の受け入れも可能な第三種漁港であり、それなりの規模 を有していました。 漁業としては、コウナゴ、シラス、サケ、ヒラメなど年間1600トンの水揚げが行われていまし た。また、後継者をもつ漁業者の割合は約30%。若手の漁業者も全国的な傾向からしても少なくない状況でした。

しかし、2011年3月11日。震災の津波によって大きな被害を受けました。人や漁船への被害に 加えて、堤防、岸壁などの港の設備も津波によって崩壊。震災後は、福島第一原発の事故によ り、浪江町全域に避難指示が出されていたこともあり、請戸漁港に係船していた漁船は、他の 地域の漁港に係留していました。 その後、護岸施設や岸壁の復旧作業が進み、浪江町への居住制限、避難指示解除が迫ると 、2017年2月25日に26隻の漁船が約6年ぶりに請戸漁港に帰還しました。

 

請戸漁港の現状

  1. 請戸漁港に係船している漁船
  2. 「浪江町の復興は請戸漁港から」と書かれた見晴台
  3. 請戸漁港の完成予想図

 

私たちが先日訪れた際にも、大小含めて多くの漁船が係留していました。見晴台からは、漁港後背地や港全体を見渡すことができました。

見晴台には、「浪江町の復興は請戸漁港から」と書かれた旗や復興計画、まちづくりのイメージ図が掛かれたパネルが設置されています。6年間、港に漁船が帰還していませんでしたが、これらの復旧作業が進められている姿からは、漁業と共に発展してきた浪江町が新しく歩んでいこうとする強い意志を感じました。

一方で、荷捌き施設がなかったり、漁港後背地が更地になっていたりと、漁港の周辺施設の復旧はまだまだでした。実際に、現在請戸漁港の漁船は相馬地区の原釜漁港に水揚げしており、 請戸漁港での水揚げ開始は平成31年を目指している状況です。

また、浪江町全体でも2017年3月31日に避難指示が解除されたにもかかわらず、いまだ街が閑散 としています。震災後、帰還することが制限されていた「空白の6年」は今なお、請戸漁港や浪 江町の復興の障壁になっているようでした。 

 

被災地を初めて訪れて

  1. 震災前の請戸。漁港後背地に多くの家が見える
  2. 漁港後背地。ほとんど更地になってしまっている
  3. 工事中の港内

 

私は、愛知県の常滑市という街で育ちました。常滑市は伊勢湾に面しており、幼いころは港で よく遊んでいました。また、海岸沿いには友人の家や公園なども多く立ち並んでいます。親戚にも漁業関係者がいるため、海には昔から親しみを感じて生活していました。

東日本大震災が発生した当時中学生だった私は、テレビ越しに見ていた光景に、正直、津波被害 の痛ましさをリアルに感じとることができませんでした。 しかし、今回、被災地に足を運び、初めて見た請戸漁港や漁港後背地の景色は衝撃的でした。

そこには、本来あったはずの家や建物はなく、だだっ広い土地と工事を行っている車両の姿だけ が印象に強く残っています。 私の地元は東海地震が発生した場合、津波によって甚大な被害を受けると予想されています。 そう考えると請戸漁港周辺の光景は他人事ではないように思えました。

親しみを感じていた海 が突如襲い掛かり、慣れ親しんだ街の姿を大きく変えてしまうことは、その地域の人にとって はどれほど恐ろしく悲しいことなのか。常滑にこうした津波が襲ったらと想像すると、その恐怖と悲しみが胸に迫ってきました。

今回、実際に被災地に足を運び、自分の目で見ることで、自分なりに被災地の現状を感じとるこ とができました。私にとって、請戸漁港の現状は、まだまだ「空白の6年」の影響が強く残って いるように映りました。

しかし、今後、魚市場の再建や水揚げの開始、水産加工施設の建設な どが予定されています。これらの整備により、「空白の6年」を「こえて」、請戸漁港に賑わいが戻ることを願っています。

 

参考文献
濱田武士「海洋汚染からの漁業復興」 濱田武士・小山良太・早尻正宏, 2015,『福島に農林漁業をとり戻す』 みすず書房.
「請戸漁港に漁船帰還 まちづくりへの新たな一歩 浪江」『福島民報』2017年2月26日 , http://www.minpo.jp/pub/topics/jishin2011/2017/02/post_14777.html ,(2018年8月7日アクセス).

イベント名筑波大学社会学類調査実習
日程2018年7月23日(月)
  • 「筑波大生現地調査レポ5 請戸漁港――空白の6年をこえて」
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