今年、海と日本プロジェクト in ふくしまでは、福島の海の復興の現状や風評被害について現地調査を行う、筑波大学社会学類・五十嵐泰正ゼミとコラボ。学生目線で、そのリサーチ結果や感想をレポートしてもらう連載企画をスタートします。初めて福島の海を訪れる学生たち。福島の海は、彼らの目にどのように映るのか。これからの「海づくり」の参考にすべく、長期的に連載していきます。
筑波大生現地調査レポ vol.11
漁連会長・野崎氏に聞く福島の漁業の復興
こんにちは!「海と日本プロジェクトinふくしま」に協力させていただいている筑波大学社会学類の秋田耕平です。今回、同大学の授業「社会調査実習Ⅱ」の一環で、福島県漁連会長の野崎哲氏(酢屋商店・社長)に取材しました。震災や原発事故の影響や福島県の漁業の現状と展望などについてお聞きしました。
福島県の漁業は、カツオやサンマなどを獲る沖合漁業とヒラメやカレイなどを獲る沿岸漁業の主に2つで成り立っています。福島県の統計によると、2010年には合計で38,657,050kgもの漁獲高がありました。
しかし、東日本大震災とその後の原発事故の影響で、福島県の漁業は一時的に全面停止しました。海への放射性物質の放出による海洋汚染などの問題で、沿岸漁業で獲れる魚介類には放射性物質が含まれている可能性があることから踏み切ったものです。
野崎会長は「(農産物では)安全宣言を出した後に放射性物質が検出されたこともあり、慎重に判断した」と語りました。一方、沖合漁業は放射性物質の影響が及ばない沖合で操業することから、7月から水揚げが再開されました。
2012年6月に3種から始まった試験操業は、現在では出荷制限と指定されている7種を除き、福島県沿岸で漁獲されたすべての魚介類が対象となっています。試験操業の規模も年々拡大。昨年の漁獲量は6,592,774kgとなっています。
試験操業で水揚げされた魚介類は、1種1検体の割合で放射能検査をしています。その検査で50Bq(ベクレル)/kgの放射性物質が検出された場合、出荷を自粛する措置をとっています。これは、国が定める基準(100Bq/kg)より厳しくなっており、安全性を担保するようになっています。
しかしこの検査で、7月20日にはヒラメから59Bq/kgの放射性物質が検出されました。このように、試験操業が開始されてから自粛するケースは、6年間にわたって試験操業の対象となる魚種が増え、規模も拡大されていく中でわずかに2例目のことです。
これについて、野崎会長は、「今回のヒラメは、第一原発の港内から逃げ出したようなケースだと推測されるが、現状の検査でもチェックが利いている証拠だ」と語っています。
試験操業という現状についてもお聞きしました。試験操業は放射性物質の影響を測ることのほかに、「漁業者への賠償」という意味も持ち合わせています。試験操業の期間中は震災以前の漁獲量に戻っていないという前提で東京電力から賠償金が支払われています。
野崎会長はこれに批判があることには触れつつも、「賠償をもらうことは恥ずかしいことではないが、試験操業の水揚げを少しでも増やして、昨年より1円でも受け取る額を減らすように努力しなければならない」と語りました。また、試験操業の期間については「(福島第一原子力発電所の)廃炉が終わるまでは続く」との見解を示しました。
まだまだ復興途上の福島県の漁業。その解決策の一つとして、野崎会長は相馬・原釜漁港の漁業モデルを挙げました。同地区は福島県でも北部に位置し、仙台という消費地に近いという立地上の利点を生かし、常に何かしらの魚介類を安定的に供給するという役割を果たしていたといいます。今後は福島県全体でそのような役割を果たすことで、復興につなげていきたいということです。また、サンマのみりん干しや乾燥かまぼこなどの加工品にも力を入れたいといいます。
福島県の漁業の完全復活にはまだまだ時間がかかりそうですが、試験操業での放射能検査など地道な取り組みと野崎会長の熱い想いから、復興が一歩ずつでも進んでいることを実感しました。一方で、原発事故から7年以上が経っても、非常に稀になっているとはいえ、放射性物質を含んだ魚介類が出てくることも、復興の難しさを象徴している気がしました。
イベント名 | 筑波大学社会学類・いわきでの調査実習 |
日程 | 2018年7月23日 |