筑波大生現地調査レポ33 魚食条例

2018-12-17
海と日本PROJECT in ふくしま

 

今年、海と日本プロジェクト in ふくしまでは、福島の海の復興の現状や風評被害について現地調査を行う、筑波大学社会学類・五十嵐泰正ゼミとコラボ。学生目線で、そのリサーチ結果や感想をレポートしてもらう連載企画をスタートします。初めて福島の海を訪れる学生たち。福島の海は、彼らの目にどのように映るのか。これからの「海づくり」の参考にすべく、長期的に連載していきます。

 

筑波大生現地調査レポ vol.33

魚食条例

みなさん、こんにちは、筑波大学の里見滉介です。いわき市の「魚食条例」をご存知でしょうか。初めてその名前を目にする方も多いでしょう。なぜなら魚食の推進に関する条例(以下、魚食条例)は、この記事を執筆している2018年10月時点では市民に広く公表されているものではなく、具体的な中身を実施する前の構想段階にあるからです。

では一体、この魚食条例とはどのようなものなのでしょうか。今回私たちは、いわき市議会の政策提案検討委員会の委員長を務める小野潤三議員と、魚食条例の提案者である木村謙一郎議員にお話を伺いました。ここで察しがついた方もいるかもしれませんが、魚食条例は、いわき市の議会改革の一環として、議員から提案された初の条例として議論されているところです。

公表されている情報ばかりではないので簡潔にまとめますと、魚食条例はいわき市民にもっと魚に親しんでもらおうというものです。魚についての知識を市民につけてもらいつつ、これまで以上にたくさん魚、特にいわき近海で水揚げされた「常磐もの」を食べてもらう。そのために生産者から流通業・飲食店・加工業までの事業者、市民と協力して市民と魚とのあり方を変えていく。このような理念を明文化したものが魚食条例なのです。

 

ムーブメントを日本全国へ

  1. 木村謙一郎いわき市議
  2. 小野潤三いわき市議
  3. 魚屋で見られた「常磐もの」

 

魚食条例を初めて知る人は、この条例の中身について様々な懸念を抱くこともあるかもしれません。例えば、「より多くの魚を食べてもらいたい」という理念は、一見すると現在広く言われている漁業資源管理の流れと逆行するようにもみえます。また、あらゆる産業に対して同等の処遇をすべき地方自治体のリソースを、特定の産業に傾けることについて、疑問に思う方もいるでしょう。これらのような問題に関しては委員会の中で深く考察され、様々な立場の議員の考えを汲み取って条例案が練られていきました。

漁業資源管理との兼ね合いという点では、水産資源の持続的な利用を図りながら魚食の推進を行う旨を条例に明記した上で、そのための啓発的な活動を支援していく形で進める予定であるとのことです。例えばアクアマリンふくしま水族館のレストランでは、資源の残量ごとに魚種を色分けし、消費者が何の魚を食べるのが望ましいのかを伝える「ハッピーオーシャンプログラム」という活動が行われています。これはかねてから行われているものですが、こういった活動は、漁業資源を保全しながら魚食の推進をはかるという条例の理念と共鳴しています。この活動はあくまで一例ですが、こうした民間の動きをバックアップしやすい仕組みを作っていくために、条例の形での制定を目指しているのです。

 

また、なぜ漁業に特化した条例を作ったかについては、漁業がいわきの歴史・文化を支える一大産業であることの他に、漁業の問題が他の産業よりも根深い問題を抱えていることを挙げています。例えばいわき市の旅館業の不況については、震災及び原発事故という重大ファクターがあり、他地域に対して大きく競争力を落としてしまいました。それに対して漁業は、原発事故が現状の引き金となったのは確かではあるのですが、震災以前からその衰退は起こっていました。つまり、今まで通りの漁業を行なっていれば、震災の有無を問わず早かれ遅かれ産業として縮小する未来がやってきていたのです。そこにテコ入れをすることは、むしろこれまで長く続いてきた漁業問題の放置にようやく手が入ると考えるべきことです。

この魚食条例はいわき市での魚食の普及を目指すものですが、お話を伺う中で驚いたのが、その先にさらに、このようなムーブメントを通じて県、さらには国に働きかけ、日本全体で漁業と向き合ってもらうことを視野に入れていたことです。もちろん直接的なアプローチではないのですが、市として漁業振興・資源管理にこれだけ力を入れているということ自体が大きなアピールになると期待されます。漁業という、資源が地域で区切れるものではなく、単一の自治体だけでは管理できない産業だからこその大きな目標だと思いますし、さらに言えば、震災・原発事故があったことによる高い注目度を持つからこそ、「福島を実験場」として、国全体に響くだけのインパクトが期待できるとおっしゃっていました。

今後の課題としては、やはりどれだけ活動を認知させられるかということにあると思います。現在はまだ条例が動いておらず、活動に対してのアクションを推進する段階ではありませんが、施行後に条例を推し進めるという際には、魚食を支える活動そのものはもちろん、その活動をPRする機会を積極的に作っていくことが重要だと感じました。

 

イベント名筑波大学社会学類・いわきでの調査実習
日程2018年10月20日
  • 「筑波大生現地調査レポ33 魚食条例」
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