レポート
2021.08.12

生分解性=海洋分解性ではない? ~小名浜海星高校の取り組み~

 

みなさんこんにちは。海と日本プロジェクト in ふくしまレポーターの松井です。以前こちらの記事で(海ごみに使い捨てマスクが急増)生分解性マスクの開発が進んでいることをお伝えしました。しかしこのような生分解性プラスチック、実際に海に流出しても問題はないのでしょうか。調べていくと、どうやら生分解性=海洋分解性ではないらしいということが分かってきました。

生分解性プラスチックと一口に言っても、その中には大まかに分けて、化学合成系・微生物産生系・天然物系の3種類があります。生分解性を評価する環境は、おおまかにコンポスト(高温多湿)、土壌環境、水環境の3点があり、どの環境で生分解性を発現するかは生分解性プラスチックの種類によって異なるそうです。

 

(出典:https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20190408.html)

例えば、生分解性プラスチックで有名な化学合成系のPLA(ポリ乳酸)は、コンポストでの高温多湿な環境では分解が進みますが、通常の土壌や水環境ではあまり分解は進みません。同じく化学合成系のバイオPBSはコンポスト・土壌環境では分解が進みますが、水環境では積極的な分解は起きません。

生分解性プラスチックの中でも、水環境で積極的に分解が進むのは、微生物産生系のPHBHなどのごく一部に限られるそうです。そして分解のメカニズムについてはこれまで様々な検討がなされていますが、陸上環境に比べ、水環境での分解実績はデータが揃っていない部分があるようです。

 

 

(出典:https://onahamakaisei-h.fcs.ed.jp/blogs/blog_entries/view/9/394515105e5a38456191ad6984c69f35?frame_id=9)

この水環境での分解について調べていくと、福島県で興味深い取り組みが行われていることを知りました。いわき市の水産高校・小名浜海星高校では、生分解性プラスチックが海中でどのように変化するかを確かめる実験を始めたそうです。

実験では、先ほど例に出したポリ乳酸・海中で分解されやすいとされているヘミセルロース・この2つの中間素材の紙粉入りポリ乳酸の3種類の生分解性プラスチックを使用して、海水面。海中・海底での分解度合いを調べます。実験は今年の7月から11月末までの4か月間にわたって、分解までの過程を観察していくということです。

この取り組みは、浜通り地域の新たな産業基盤の構築を目指す国家プロジェクト「福島イノベーション・コースト構想」の推進機構とと連携して行われており、並行して地中での分解速度を競うコンテストも開催されるそうです。

上で述べたように生分解性プラスチックはコンポストや土壌環境で分解が進みやすくなるように設計されたものが多く、それに比べて水環境でも積極的に分解が進む生分解性プラスチックはまだまだ開発の途上にあります。そこでこうした取り組みが福島で行われることで、海でも分解が進みやすい生分解性のプラスチックの開発が進むのはもちろん、小名浜海星高校や福島県の産業に対する関心が高まることが期待できますね。

ここまで見てきて、現時点では生分解性プラスチックは海ごみ問題をすべて解決してくれる夢の素材ではないということがわかりました。現在広く利用されている生分解性プラスチックの中で海洋分解性のものはごくわずかであり、コンポストや土壌など、それぞれが生分解性を発揮する環境を理解し、適切に利用・分別する必要があります。これから海洋分解性のプラスチックが普及した場合にも、海洋分解性だからと言って、分別をおろそかにしてしまっては意味がありません。生分解性プラスチックは、海ごみ問題に大きな役割を果たすことが期待できますが、過度な期待をすることなく、社会全体でプラスチック削減に取り組んでいくことが依然として重要であるということには変わりありません。

海プロ in ふくしま レポーター:松井武郎

【参考資料・画像出典】

三菱総合研究所 生分解性プラスチックの課題と将来展望 

日本バイオプラスチック協会 生分解性プラスチック入門

福島民友新聞 プラスチック海水中分解実験 小名浜海星高がデータ収集

 

 

 

 

イベント詳細

イベント名生分解性=海洋分解性ではない? ~小名浜海星高校の取り組み~
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