みなさんこんにちは!
海と日本プロジェクト inふくしまレポーターの前野です。
2023年4月29日(土)、草野心平文学記念館で企画展「草野心平の詩 海は己れの海鳴りをきき。」が開催されました。この企画展は、草野心平生誕120周年を記念して開催されており、コラボ展示として、いわき七浜イケメンプロジェクトのパネルも展示されました。いわき七浜イケメンプロジェクトは、いわき在住の若者に海産物を知ってもらうことを目的に、いわきの七浜を擬人化したキャラクターが魚食に関する情報発信を行なっています。
詩人・草野心平は、いわき市小川町の出身です。代表作「春の歌」をはじめ、「蛙」を主題にした詩をたくさん作っていたことから蛙の詩人と呼ばれています。蛙以外にも、富士山や天、石を主題にした詩を書いていて、それらの詩の根底には「すべてのものと共に生きる」という草野心平の共生感が謳われているといいます。
生涯で書いた詩は、1,400余篇。そのうちの70篇は「海」を主題としており、彼自身も「海」に関する詩を相当書いたと自覚しています。一般的に知られていない草野心平の「海」にまつわる詩を多くの人に知ってもらおうと開催されたのが、今回の企画展というわけです。
70篇の詩には、いくつもの地名が登場します。千葉県の九十九里浜で、今ここで自分が見ている夜の海からマンモスが生きていた時代を想起しながら書いた詩「夜の海」や、新潟市からのぞむ日本海の荒々しさを書いた「日本海」をはじめ、ロシアとアメリカの間にまたがるベーリング海峡を幻想的に書いた「Bering-Fantasy」など、日本以外の他の国の海も詩を通じて知ることができます。
なぜこんなに多くの場所の海の景色が詩の中に描かれているのかというと、草野心平は生涯で30回以上の引っ越しをしていたためです。草野心平記念文学館のホームページには、生活の糧を得るために各地を転々としていた、引っ越した先で新聞記者、出版社の校正係、貸本屋、屋台の焼鳥屋、居酒屋の主人、バーのマスターなどさまざまな職種を経験したとの記載がありました。
ここから、さまざまな海をみるために住まいをうつしたのではなく、生活を成り立たせるために引っ越しを繰り返し、行った先々で自分の身近にあった海を詩にしていたのではないかと想像しました。
展示作品の中には、ふるさと・いわきの浜の様子を書いた「磐城七浜」も展示されていました。その詩の中で、特に印象的だった部分があります。それは、「全裸栗光の漁師たちの。はげしく盛り上がるかけ声と。 それがいまでは。コンクリートの防波堤がのび。白ぬりの大きな船が。太平洋にのしてゆく。」の部分です。
漁師の勢いやいきいきとしている現場の様子を表現した前半に比べ、それがいまでは〜からはじまる後半は、コンクリートや船がただそこにあるという事実を淡々と記述した表現に変わります。
そこから、幼い頃自分がみていた海辺の風景がすっかり変わってしまったという事実、それに対する悲しさが伝わってくるような気がしました。また、蛙やマンモスなど、より自然に近い目線から世の中を見つめて詩を書いていた草野心平だからこそ、人間がもたらした変化を批判的に表現しているのかもしれないと感じました。
草野心平の詩や視点から、今住んでいるいわきの海をどのようにみているのかを改めて考える機会になりました。この企画展は、2023年6月25日(日)まで開催されています。ぜひ足を運び、自分にとっての海について考えてみてください。
海と日本プロジェクト inふくしまレポーター 前野
イベント名 | 草野心平の詩「海は己れの海鳴りをきき。」 |
日程 | 2023年4月29日(土) |
場所 | いわき市立草野心平記念文学館 |