みなさん、こんにちは。海と日本プロジェクト inふくしま、事務局レポーターの小牧です。
私は海なし県である栃木県で育ったため、海のことをほとんど知りません。しかし、今私が住んでいるいわき市では車を走らせれば10分ほどの距離で朝の魚市場があります。そこで、沼ノ内港の魚市場で、セリの様子を見に行ってみることにしました。市場の様子を知らないという方にも、実際にどんな雰囲気の中でどんなことをやっているのかをお届けできればと思います。なお、今回はいわき市小名浜の寿司屋「鮨兼」の店主、日向寺良幸(ひゅうがじ・よしゆき)さんに同行させていただきました。
セリが行われる建物のすぐ横に車を停めて降りると、そこはとても静かな場所で、これから本当に人が集まるのかなと思うほどでした。ところが建物に入った瞬間、別世界に入ったように浜の男たちの話し声がワッと聞こえてきました。周りを見渡すと水浸しの地面、セリに参加する人たちの長ぐつと魚かぎ、水が流れ続けているホースが目に飛び込んできます。男性がほとんどですが中には女性や幼い女の子もいました。
セリで入札する人は緑の紙とペンを持っています。緑の紙には四角い枠と、誰が買ったのか分かるよう番号が記されています。セリが始まる直前に、魚は、船の名前が書かれた青いかごに数匹ずつ分けて移されます。魚が移されている間、入札する人は魚の水揚げ量や見た目を見ながら、緑の紙に1kgあたりの購入希望値段を書き、裏返してカゴごとに入れていきます。
カランカランカランと鐘の音が8秒ほど鳴り響き、いわき漁協の方が威勢の良い声で「マグロー! はい、ここまで入札ー! 」とセリを始めます。緑の紙を魚に置く時間が終わると、裏返しの紙を表にして一番高い値をつけている紙が一枚残され、購入者が決定されます。
その後、青いカゴごと測量器に乗せて、重さを測る人が「ホウボウ! さんてんよん! せんときゅうじゅう! よんにーにー!」などと声をあげ、記録する人が魚の名称・重さ・1kgあたりの金額・購入者に割り当てられた番号を記録していきます。
ここまで書いたことを日向寺さんをはじめ、セリに参加する方々が一つ一つ教えてくださいました。私は魚の名前も知らないばかりか、「活魚」(生きたままの魚)と「鮮魚」(生きていない魚)の違いも知らないような人間でした。
でも今日、実際に見て聞いた魚たち(ホウボウ、スズキなど)は今後忘れられないですし、長靴の上を水が流れる感覚も初めての体験でした。そして一番驚いたのは、魚市場なのに「魚のにおいがしない」ことでした。後で教えてもらいましたが、活きの良い魚ばかりだとにおいがキツくならないそうです。
魚が海で釣られる。魚が市場で売買される。魚がお店や家で捌(さば)かれる。こうしたことは小学校や中学校の社会科において、水産業の単元の中で学ぶことでしょう。しかし、海なし県で15年ほど前に海について学んだ私が一番覚えているキーワードは「領海」と「排他的経済水域」。海の問題が出題されたら、脳裏に浮かぶのはこの二つでした。
小学生、中学生の私にとって、自分が口にする魚がどういう方達のおかげで食べることができるのかという点については、リアリティのない、いわばフィクションのイメージでしかありませんでした。「いただきます」は、釣ってくれた人と命をいただく魚だけに感謝をする言葉でしかなかったように感じます。
しかし、これからは、セリを進行する人、大きなカゴから小さなカゴへ移す人、セリが終わった場所を片付ける人、魚の重さを測ったり記録したりする人、魚の購入者に領収書を発行する人など多くの人を思い浮かべながら「いただきます」と手を合わせることができそうです。
小学校からの学校教育で扱う学習内容は本当にたくさんあります。年々教科書は厚くなり、大人が知っている常識よりも広く深くいろいろなことを子どもたちは学びます。そのため、少しでも自分の原体験となるような経験をすることが大切なのかなと思います。ある場所で感じた音やにおいは、また別の場所で何かがトリガーになって思い起こされることがあるかもしれません。
例えば社会科見学に行ったときに、「ここの場所の音やにおいも感じてみよう。どんな人が働いているのか、よく観察してみよう。」などと声をかけるだけでもその場での体験が変わるのではないかなと思いました。
海と日本プロジェクト in ふくしまレポーター 小牧
イベント名 | 沼ノ内港の魚市場 セリ見学 |
日程 | 2022年7月25日 |
場所 | いわき市平 |