みなさん、こんにちは! 海と日本プロジェクト in ふくしま、レポーターの染矢です。
今回は、いわき市の港町・中之作を初めて訪れました! きっかけは、2022年からこの町に住んでいる、海と日本プロジェクトのレポーター、前野有咲さん。私と同じ移住者である前野さんは、コミュニティデザイナーとしての一面もあり、地域の人たちと積極的に交流しながら、海のある暮らしを楽しんでいます。
海なし県出身の私にとって、港町での暮らしは未知の世界! 前野さんが書かれた過去の中之作のレポートを見て、同じ移住者でも地域の暮らしをこれだけ楽しめるのには、どんな理由があるのか気になり、今回ガイドをしてもらうことになりました!
いわき市の沿岸部にある中之作は、小名浜から車で10分ほどの場所にある小さな港町。江戸時代から昭和にかけて、商港や漁業の盛んな町として賑わっていました。しかし、1996年に国連海洋法条約で200海里の排他的経済水域が制定されたことによって漁獲量が減少し、さらに2011年に起きた東日本大震災による津波の影響により、町が衰退していきました。
現在は、古民家や空き家をリノベーションし、コミュニティを再生する活動を行う「NPO法人中之作プロジェクト」や、海が見えるカフェと農園「月見亭」、シェアハウスやゲストハウスなど、町を盛り上げようと新たな取り組みが始まっています。
中之作港から町歩きスタート。太陽が照りつけ、澄み切った青い海がキラキラと輝いています。港には漁船が数隻と、魚釣りを楽しむ人の姿が。「昔は港にびっしりと漁船があったみたいです。でも、排他的経済水域が制定されてから寂しい景色になってしまって」(前野さん)。その解説を聞き、当時はどんな景色が広がっていたのだろうと想像を膨らませました。
かつての港を想像していると、背後から「メェ~」とヤギの声が聞こえてきました。声の正体は、港の目の前にある空き地にいたヤギのうみ君! 雑草問題を解決するためと、ヤギを通じて人々の交流を生むきっかけをつくるため「NPO法人中之作プロジェクト」が2022年に迎え入れた中之作のアイドルです。
カメラを向ける私に目もくれず、無我夢中で空き地の草を食べています。その様子を見に自然と人も集まり、うみ君はしっかりと自分の任務を果たしていました。「昔はうみ君のいるこの空き地に、倉庫が建っていたんですが、東日本大震災の津波で流されてしまって。でも、この小屋がクッションとなってくれたおかげで、他の地域と比べると津波の被害はそこまで大きくなかったようです」(前野さん)。
一見するとただの空き地ですが、実は町を津波から守ったヒーロー的な存在だったとは! 地元に住む前野さんだからできる解説だと感じました。現在の町の姿だけでなく、漁業で栄えたかつての町の姿や、震災前の町の様子についても語れる前野さん、私も見習ねば! と身が引き締まりました。
海の後ろに、山が立つ中之作。山へ続く道はかなりの急坂です。下半身のいい筋トレになりそうなほどの上り坂を登っていくと、諏訪神社が見えてきました。階段を上って鳥居をくぐり後ろを振り向くと、港町とその向こうに青々と輝く海が!
木々に囲まれた境内には、立派な拝殿が鎮座し、厳かな雰囲気が漂います。「お正月はここで参拝するのが恒例です。5月にはコロナ禍で開催できなかった例大祭があって私も初めて参加したんです。おじいちゃん・おばあちゃんや、子供たちなどがたくさん集まってきて、町がこんなに盛り上がっているのを見たのは初めてでした。」(前野さん)。神社がいかにこの地域で大切にされているかを垣間見ることができました。
神社を後にして、港町を歩いていきます。途中で道を歩いているおばあちゃんや犬の散歩をする人など誰かに出会う度に、前野さんは何のためらいもなく「こんにちわ~!」と話しかけていきます。「お散歩ですか?」「おうちはこの辺りですか?」と「前野の街角インタビュー」のごとく、インタビュアーになって次から次へと尋ねていきます。私も会話の輪に入って楽しく話しているうちに、すっかり地元の人と顔見知りになったような気がして、より中之作に対する想いが強くなりました。
人の話を通して見る地域に魅力を感じる前野さんにとって、町で出会う人たちは「生きる資料」なのかもしれません。知り合いの地元の方々も多く、「前ちゃん〜!」と親しげに声をかけられる姿を見て、まさに前野さんが日頃からコミュニティデザインを実践している成果だと感じました。
住宅街を歩いていると、「これはまさにいわきのサントリーニ島では?!」と思わせる景色を発見。少々誇張しすぎてしまいましたが、年季の入った民家の屋根や壁が海の色と同じように青く塗られていることに気がつきました。色褪せて緑色になっているところもあります。前野さん曰く「私の予想では、船を塗装するときに余った塗料を使っているのではないかと思うんです」と。
たしかに、漁師が多く住むこの地域では、漁船を所有するのが当たり前。もしかすると、船の塗装で余ってしまった青色の塗料を利用したのかもしれません。前野さんの予想を聞いて、「当時家を青色に塗装するのが流行っていたのか?」「青色の塗装が安価だった?」「家を青色に塗るという中之作の謎の掟があった?」など、勝手な想像を膨らませました。明確な答えはわかりませんでしたが、憶測するだけでも楽しい時間です。
暑さでヘトヘトになってきた頃「ここでおやつを買って、この先の浜辺で食べましょう」(前野さん)とガイドから提案が! 手作りの団子や大福などを揃える地元の老舗「玉泉堂菓子店」で、おやつを購入し、住宅街を抜けて海沿いへ。
町歩きの終点は、中之作のお隣、永崎地区との境にある「竜ヶ崎」。防波堤を越えると、真っ青な大海原が広がっています。ここに「へそ石」と呼ばれる奇岩があり、地元では「このへそ石が動いたら災いが起こる」と言い伝えられているそう。
防波堤に腰掛けて、大福を食べながらひと休みすることに。地元の人しか知らないような隠れスポットで見る海は、いつも見る海と違って特別感が増します。次々と浜辺に打ち寄せる波に、心地よい潮風、あたりは波音だけが響き渡り、疲れた時や嫌なことがあった時にひっそりと訪れたい海スポットだと感じました。
名ガイドのおかげで、海のある暮らしを想像しながら、楽しい港町歩きをすることができました! 中之作を訪れてただ海を見るだけでは、町の魅力に気づけなかったことでしょう。地元に住む前野さんが暮らしのなかで見てきた町を語り、道中で地元の人々との出会いがあったからこそ、中之作がこんなに素敵な港町だと思うことができたのです。
移住してきた地域の過去を知らなくても、日々の生活を送ることはできます。しかし、地域の歴史や伝統を知るだけで、通い慣れた道や見慣れた風景にドラマが生まれ、その地域への愛着がより湧いてきます。
前野さんの姿を見て、同じ移住者として私も自分が今住んでいる地域の過去を学び、積極的に地域の人たちと交流し、自分が住む町をより好きになり、楽しい暮らしができるようになりたいと思いました。そして、いわきの海町の魅力を今後も掘っていきたいと思います!
イベント名 | 港町・中之作で港町歩き |