レポート
2016.10.13

港町小名浜の魚食文化を支える さんけい魚店

 

福島第一原発の事故を受け、大幅に制限された漁業を余儀なくされている福島県。漁業に携わる人たちは、さまざまな葛藤のなかで、日々を送っています。しかし、葛藤があるからこそ、海とわたしたちはいったいどのように向き合っていけばいいのかのヒントや知見もまた、数多く残っているのも事実。ここでは、福島で漁業に関わる人たちの声を少しずつ集めていきます。

第1回は、いわき市小名浜の鮮魚店「さんけい魚店」をご紹介します。

小名浜に店を構えて長い間、味に厳しい小名浜の客に支えられてきた「さんけい魚店」。2011年の震災時には、地元の魚がまったく水揚げされない時期が続きましたが、地下水を開放したり、野菜や果物などを販売したりと、市民が必要なものを届けようと、奮闘を続けてきました。現在は、福島の魚の取り扱いも再開され、自慢の干物に遠方からも注文が入るほどになっています。

しかし、「地元の魚が震災前に比べるととても少なくなってしまったのが悲しい」と、若女将の松田幸子さんは語ります。市場などに買い付けにいけば、全国各地の魚を仕入れることはでき、店頭の商品も充実化させることはできますが、福島県産はまだまだ漁獲量も足りません。少量しか流通しないため、結果的に市場での価格も高くなり、提供にしにくいというわけです。

「震災前は、新鮮な魚を直接港に買いに行き、干物を作るのが日課でした。父は、この小名浜の海風を『干物風』と呼んで、大事に干物を作ってきました。今は、魚の流通量が少ないので他県産を使うことも増えましたが、やっぱり地物の魚を使って、小名浜の干物を作りたいですね」と松田さん。地元の魚と、風と太陽で干物をたくさん仕込む日を心待ちにしています。

「長年お世話になってきた海が、あのような津波を起こし、原発事故も起きてしまいましたが、私たちの自慢の魚たちもまた海の産物です。海の大きさ、恐ろしさを感じた震災でしたが、恵みを次の世代に受け継ぎながら、小名浜の食文化を守っていきたいと思います」。松田さんは、前を見据え、日々、海と向き合っています。

 

港町小名浜で、長く町民の暮らしを支えてきた鮮魚店

  1. 若女将の松田幸子さん。いつも元気な笑顔を届けてくれます。
  2. 自慢の干物は遠方から続々と注文が入ります。
  3. 新鮮な鮮魚は、地元の寿司店や割烹店にも出荷。

 

震災から5年半が過ぎ、福島の漁業の話題もなかなかテレビなどで報じられることもなくなりましたが、現場の苦闘は今も続いています。しかし、前向きに、そして次の世代に受け継ぎたいと、日々商売に精を出している松田さんたちの姿を見て、大きな希望を感じずにはいられません。多くの喪失を経験した福島だからこそ、日常に根ざした海との向き合い方、楽しみ方、味わい方を見つけていけるのではないでしょうか。

 

イベント詳細

イベント名魚と味 さんけい魚店
場所福島県いわき市小名浜本町16-1
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