今年、海と日本プロジェクト in ふくしまでは、福島の海の復興の現状や風評被害について現地調査を行う、筑波大学社会学類・五十嵐泰正ゼミとコラボ。学生目線で、そのリサーチ結果や感想をレポートしてもらう連載企画をスタートします。初めて福島の海を訪れる学生たち。福島の海は、彼らの目にどのように映るのか。これからの「海づくり」の参考にすべく、長期的に連載していきます。
筑波大生現地調査レポ vol.24
上野台豊商店の挑戦は続く
9月24日の昼、いわき市の有限会社「上野台豊商店」の事務所を訪れ、店主の上野臺優さん(以下、優さん)にインタビューをさせていただいた。様々な話をしていただいたが、今回のブログは特に小名浜さんま郷土料理再生プロジェクトとあおいちプロジェクトの話を中心に話を進めていきたい。
小名浜さんま郷土料理再生プロジェクトとは
小名浜さんま郷土料理再生プロジェクトは、優さんが港町小名浜で愛されるさんまの家庭料理を地元の方だけでなく、全国の皆様にご賞味いただきたいと立ち上げたプロジェクトである。いわき市内の水産業者、卸問屋、加工業者など複数の企業が連携し、さんまの郷土料理を商品化していくプロジェクトで、代表的な商品として「さんまのポーポー焼き」があげられる。
このプロジェクトを立ちあげた背景には、原発事故後に、福島産生鮮サンマの売り場が他の産地に奪われてしまったため、オリジナルな差をつけやすい加工品で勝負していこうといった狙いがあるという。また、若年層の魚離れを引き留める役割も担っているという。優さんは「食文化の再認識」、つまりまずは地元いわきでさんま郷土料理のブランド力の強化が必要だと語ってくれた。そのために、さんまが旬の秋には学校の給食で「さんまのポーポー焼き」を提供するといったように、公共機関も通じて広めていきたいという。
あおいちプロジェクトとは
あおいちプロジェクトは、小名浜の水産加工業者と、地域の医療・福祉に関わる人たち、料理人や地域づくりの担い手とともに推進する魚食推進プロジェクトである。このプロジェクトの目的は、青魚の地産地消による小名浜港の水揚げ量の拡大、そしていわき市民の健康を支えることである。
いわき市民は健康診断の実施率が全国に比べて低いからか、脳卒中や高血圧になる人の割合が全国も非常に高いことで知られている。そのため、「食べると健康になる青魚」を食べる動機付けをしようというのだ。青魚は実際に健康に影響を及ぼすのか?いわきの地域包括ケア「igoku」と協力したモニター検査もなされている。
モニター検査では、体重増加傾向にある30代から60代のいわき市民約30名に対して週に4食ほど青魚のテスト商品を食べて頂き、2か月に1度血液検査を行い、その結果を検証・分析しようというものである。週に4食の青魚は多いと感じる方もいるかもしれない。そのため、料理研究家や栄養士によるアレンジレシピも紹介されており、楽しく健康増進できるような工夫がなされている。
優さんは、「すぐに良い結果は得られないかもしれないが、いわき市民が健康に向かう動機付けとして期待したい。」という思いだ。
今後の展望
優さんは上述したプロジェクトを通して魚食を食べる人が増え、地元のいわきの水揚げを少しずつ増やしてきたいという。今は他の産地に売り場を取られてしまった生鮮商品の出荷も、まずは地元で青魚を食べる価値、つまり青魚に対するイメージを変えていくことから始めて福島の魚を全国の市場に推す理由を作っていきたい。いわき市全体で漁業を盛り上げていくという思いが伝わってきた。そんな大きな展望を描く上野臺豊商店と優さんの挑戦を楽しみにしていきたいと思う。
イベント名 | 筑波大学社会学類・いわきでの調査実習 |
日程 | 2018年9月24日 |