今年、海と日本プロジェクト in ふくしまでは、福島の海の復興の現状や風評被害について現地調査を行う、筑波大学社会学類・五十嵐泰正ゼミとコラボ。学生目線で、そのリサーチ結果や感想をレポートしてもらう連載企画をスタートします。初めて福島の海を訪れる学生たち。福島の海は、彼らの目にどのように映るのか。これからの「海づくり」の参考にすべく、長期的に連載していきます。
筑波大生現地調査レポ vol.32
福島を資源管理の先駆けに!
みなさん、こんにちは。「海と日本プロジェクトinふくしま」に協力させていただいている、筑波大学社会学類4年の仲田麻里菜です。11/14(水)に、久ノ浜で底曳網漁をしている新妻竹彦さんにインタビューをしてきました。底曳のことはもちろん、試験操業や資源管理に関することまで、色々なお話を聞かせていただきました。
はじめに、新妻さんについて紹介します。久ノ浜で漁師をはじめて、新妻さんで4代目。曾祖父・祖父の頃は、釣りと延縄で魚を獲っていたそうです。祖父が父を船に乗せるようになったころから刺し網に、底曳は父の代からはじめて、35年ほどになるそうです。
底曳網漁は7・8月は禁漁で、漁師の1年の始まりは9月。9月10月はマガレイ、11月12月にヤナギガレイ・アナゴ、1月~2月にアカメフグ・カワハギ(ウマヅラハギ)、マダコが獲れます。3月辺りの水温の低い時期には、あまり魚が獲れなくなります。そして、桜の咲く時期から6月にかけてはヤナギダコ。ヒラメに関しては、人工的に10cm以上に育ててから(小さいときはほかの魚に捕食される側、大きくなると捕食する側)海に放つ種苗放流を福島県がしています。そのほかにも、30cmに満たないものは獲らずに海に返すようにしているため、年中安定して獲ることができます。試験操業中の漁は週2回以上。競りは10時ごろには終わります。
試験操業についてどのように考えているのかお聞きしたところ、今はまだ試験操業をやらざるを得ないかなと思っているとのことでした。福島県では、未だ7種類の魚の出荷規制がされているからです。
これらの魚は、実はあまり漁獲されない魚種です。出荷規制が解除されるには、連続して基準を下回らないといけないのですが、そもそもたまにしか獲れないために、規制が解除されないという事情があるのです。それでも、まだ獲ってはいけない魚がある以上、試験操業を続けるのは仕方がないことだと新妻さんは考えています。
また、風評についても話を伺いました。新妻さんが一番心配だったことは、放射線の影響を受け流通が止まった福島県産の魚を、放射線問題が落ち着いたころにどうやって流通を取り戻すのか。市場において、いったん他県産で補われてしまった流通経路を福島県産に戻すのは難しいことです。
2011年の間は、新妻さん自身もまだ魚を獲るべきではないと思っていましたが、それでも、細くとも流通ラインをつなげておくべきだと考えていました。さらに、魚を獲らなくなることで漁師のスキルが衰え、後継者を育てられなくなることや、地域の魚食文化が伝承されなくなることに対する不安もありました。
しかし、流通ラインをつなげておくことは実際には非常に困難でした。当時、築地の仲買人から「福島県産の魚はしばらく要らない」ときっぱりと言われたこともあったそうです。他県でも獲れる魚を、あえて福島県産のものを売る・買ってもらうことがいかに難しいことなのか痛感したと言います。
近年では、福島でしか獲れない魚については高くても売れるようになってきたそうです。全国的にコウナゴが獲れなくなり、相馬でだけ獲れたことがありました。そのときに高く売ることができたため、福島産のものにもう風評はないよねという声もあるそうです。しかし、他県産と競合するものでは震災前の水準で売ることができていないにも拘わらず、福島でしか獲れないものが高く売れたことだけをもって、風評はないと評価することができるのか、新妻さんはとても疑問に感じています。
福島県では、本操業を停止して7年にもなります。その困難な期間は一方で、福島県沖の漁業資源を結果的に増やすことにつながり、また、試験操業という経験によって、漁獲を管理しながら漁をする資源管理型漁業の土台ができました。
今こそ、試験操業と資源管理とをうまくリンクさせたいと新妻さんは力をこめます。福島県がIQ方式(漁業者または船ごとに漁獲枠を割り当てる資源管理方式)の先駆けとなり、福島は魚を増やして儲かっているんだと示して、他県がまねをするようになったらいいなと考えているそうです。
しかし、IQ方式をただ取り入れるだけでは上手くいかないとも指摘します。たとえば、IQ方式と底曳の相性はよくありません。底曳は、名前のとおり海底に生息し、網に入った魚を船上に取り込んでしまう漁法です。狙っていない魚やあまり状態の良くない魚も獲れてしまいます。海底にいる魚の魚種や大きさを選別する方法には限界があります。
こうした底曳漁に単純にIQ方式を導入すると、漁獲の割り当てを守るために、船の上で魚を選別し良くない魚はその場で海に捨て、良い魚だけを水揚げ高として報告するということが起こりかねません。そうなった場合、海に捨てられた魚の9割くらいは死んでしまっているはずだと新妻さんは話していました。こういった課題を踏まえて、出漁頻度自体を調整する新たなルールなど、底曳網漁に合う資源管理の方法を考えなければいけないと言っていました。
インタビューの最初から最後まで、福島の漁業をめぐる課題に対する熱意に加え、純粋に魚を獲ることや魚自体が好きなんだということがものすごく伝わってきました。そんな新妻さんのお話を聞いていると、福島県が資源管理の先駆けとして、日本の漁業を引っ張っていける日がくるといいなと思いました。
イベント名 | 筑波大学社会学類・いわきでの調査実習 |
日程 | 2018年11月14日 |