筑波大生現地調査レポ36 風評打破には地道に続けること

2018-12-21
海と日本PROJECT in ふくしま

 

今年、海と日本プロジェクト in ふくしまでは、福島の海の復興の現状や風評被害について現地調査を行う、筑波大学社会学類・五十嵐泰正ゼミとコラボ。学生目線で、そのリサーチ結果や感想をレポートしてもらう連載企画をスタートします。初めて福島の海を訪れる学生たち。福島の海は、彼らの目にどのように映るのか。これからの「海づくり」の参考にすべく、長期的に連載していきます。

 

筑波大生現地調査レポ vol.36

風評打破には地道に続けること

 

みなさん、こんにちは!筑波大学五十嵐ゼミで、海と日本プロジェクトinふくしまに参加している近藤達哉です。今回私は、福島県いわき市平沼の内浜街にある、沼の内漁港にお邪魔してきました。豊間漁港の北に位置するこの沼の内漁港では、七・八月は主力である底引き網漁が資源保護のため禁漁になり水揚げ量が減りますが、毎年九月から再開され、様々な魚が水揚げされます。11/28にうかがった時点で私が市場を見て回ったイメージだと、アナゴやカレイが比較的多いイメージで、立派な真鯛や大きなアンコウなど高級な魚も多いように感じました。

私が現地に着くまでは漁港の市場というと、部外者の存在をよく思わない雰囲気があり、仕事の邪魔であれば荒々しく扱うようなイメージがあったのですが、沼の内漁港では特に叱責を受けることもなく、気軽に市場の競りの様子や作業を見学でき、市場というものに対するイメージの違いに少し驚かされました。

 さて、なぜ私が今回まず沼の内漁港に伺ったかというと、この漁港で魚を仕入れ、首都圏への仲卸をしているという、四倉水産加工業協同組合に所属する濱田榮一さんとのアポイントメントの前に、その職場である漁港を一目見ておこうと思ったためです。濱田さんは現在、首都圏の中央市場を中心に、地元いわきや仙台への仲卸をなさっている方で、東京は豊洲に出荷しているとのことです。組合の方々が利用する加工場でお話を伺ったのですが、首都圏はやはり大きな消費地であり、量も流通するからメインの出荷先だ、と話している最中にも、東京や横浜方面用のヒラメを手際よく血抜きし、箱に詰める作業の手は止まりません。

仲卸とは、商品を産地から消費地へと送る間を取り持つ存在であり、需要と供給のどちらの情報も把握していなければいけないポジションです。競りに出かける前段階で、濱田さんは、取引先からの電話などの連絡によって、需要のある魚種や量を把握しています。そして、それを水揚げしている漁港からニーズに合った魚を自らの評価に基づく価格で落札し、供給する。同じ魚でも、地域によって好むサイズが異なることなどを教えていただき、経験や知識がものをいう職業だな、という印象を受けました。

 

流通を支えている仲卸

  1. 水揚げされ、競り落とされたあなご
  2. 熟練の手つきで作業する濱田さん
  3. 加工場

 

濱田さんに3.11前後での仕事における変化を尋ねたところ、震災後の全体的な敬遠ムードの中でも、特に地理的に遠く離れた関西圏では福島県産の買い控えが比較的強く存在し、それと比べると東北では売れていたということです。例えば東京の大手スーパー五社では、福島県産の買い控え方針を続ける会社が多く、量が捌けているスーパーはまだ少ない、と残念そうに話す姿が印象的でした。

また、魚離れについてどう感じているかを尋ねると、魚離れは問題だ、と大きく頷いていました。濱田さんが考える魚離れの要因の一つには、家庭での消費の減少があるといいます。家庭料理としての魚消費慣行が減り、魚を家で食べる手間をわざわざかける時代ではなくなったことがやはり大きく、魚を食べる際にも安い輸入物や加工済みを使うことなどが増えていることに魚離れの原因の一端があると考えているそうです。そしてこの魚離れを加速させる風評被害の影響も、仲卸をするうちで感じるとのことでした。

濱田さんに、この状況を打破するために何か考えている展開があるかと聞くと、仲卸にできることはなく、将来的に好転させるにはまだまだ継続的な行政の支援が必要だろうな、と仰っていました。また、漁業にすぐに大きな変化が起こることは期待できないが、今はとりあえず何とかやっていけているから、次の世代に良い変化があるといい、と仰りました。現在後継者のいない濱田さんですが、あと十年は頑張るからそのうちにやる気のある後継者が現れること事を期待しているとのことでした。

また、今後の懸念の中には、原発の処理済み水が放出される可能性があることもあるといい、あれをされたら漁師は廃れ、漁業は終わりだよ、と深刻そうに仰っていました。 

濱田さんにお話を聴いている間、加工場では4名程度がグループになって作業を続けていましたが、熟練した手際でした。なぜ手作業なのか聞くと、この規模の加工場に関しては、魚種やサイズ、処理の仕方の種類の多さのために、機械化はせず、一日四時間ほど魚の処理に追われる、とのことでしたが、これがもし機械化されたら、と考えずにはいられませんでした。

機械化がされれば、効率は上がり、魚の流通コストは小さくなります。その結果、魚は消費者にとって、さらに手の出しやすい魅力的食べ物になると考えられるでしょう。しかしそれは同時に、その作業を生業にしており、魚を高く売りおいしく食べてほしい、魚の良さを知ってほしいと願っている人々は仕事が減ってしまうかもしれない可能性もはらむものです。加えて、消費者も熟練の職人の技に触れる機会も減ってしまう、というジレンマが存在するでしょう。

 

魚離れと風評被害によって打撃を受けている福島の漁業の、流通を支えている仲卸という職業の今後の展望は、地道な仕事と辛抱を続けていくことがこれからも求められるようです。首都圏においしい魚を届け続けてきたこのつながりが、良い方向に展開しつつ、続いていくといいなと思います。

 

イベント名筑波大学社会学類・いわきでの調査実習
日程2018年11月28日
  • 「筑波大生現地調査レポ36 風評打破には地道に続けること」
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