今年、海と日本プロジェクト in ふくしまでは、福島の海の復興の現状や風評被害について現地調査を行う、筑波大学社会学類・五十嵐泰正ゼミとコラボ。学生目線で、そのリサーチ結果や感想をレポートしてもらう連載企画をスタートします。初めて福島の海を訪れる学生たち。福島の海は、彼らの目にどのように映るのか。これからの「海づくり」の参考にすべく、長期的に連載していきます。
筑波大生現地調査レポ vol.38
大型スーパーのリアルな声!-福島の魚の現状と展望
みなさん、こんにちは。海と日本プロジェクトに参加させていただいています、筑波大学社会学類3年の土井広輝です。11月28日(水)に、イオンスタイル品川シーサイドにてイオンリテール鮮魚部の宮田裕史さんと、イオンデモンストレーションサービスインクの斎藤久さんにお話を伺うことができました。今回のインタビューでは、宮田さんからは主に、鮮魚の選定の仕方から福島県産の水産物への評価、斎藤さんからは「福島鮮魚便」についてお聞きすることができました。私は主に宮田さんからお聞きした話を中心に、現場でのリアルな声とともにお伝えします!
宮田さんは、イオンの本社で勤務する鮮魚部の方で全国展開するイオンの店舗において、どこのどんな魚を置くのか決めている方です。一般的な鮮魚がとられてから売られるまでの流れは、漁獲→産地仲買→消費地仲買→小売というようになっています。そして、この流れでより良質でより安い魚を買うのが、宮田さんの目的となります。
一方で宮田さんによると、イオンなどの全国に店舗をもつ大型スーパーでは昔から取引をしている仲買人さんがいるとのこと。その人たちとはずいぶん前から契約しており、今その取引先をいきなり変えるということはないそうです。つまりある程度決まったところから仕入れをしており、それによって大型スーパーの安定供給が可能になっているのだとわかりました。
ただ、福島県産の水産物の取り扱いは原発事故後に大きく変わったそうです。2018年6月から、イオンでは「福島鮮魚便」という福島の水産物限定の常設販売コーナーを設けています。その魚は福島県漁連から直接買い付けており、イオン本社が動いている形です。他県の水産物ではこのようなことはしておらず、福島の復興にかける思いが感じられました。
この「福島鮮魚便」を宮田さんは高く評価していて、その上で福島の漁師さんには、もっと魚を獲ってほしいと思っているようです。常設コーナーとして「福島鮮魚便」を運営していくにあたって、毎日充実した魚を並べたいけれど並べられない日があるのが現状です。魚をもっと取ろうと思えばとれるのではないか。そんな悔しさがお話のなかで伝わってきました。
しかし、これは宮田さんが福島の魚を評価している証拠だと思いました。宮田さん自身、福島の魚に対する風評被害はほとんど感じないと言っています。むしろ試験操業で水揚げが少ない現在、セリでは常磐ものの魚が取り合いになっているほどだそうです。
また、福島の水産業の中で大きい部分を占めるカツオやサンマなどの沖合漁業には、別の問題があるようです。それは、全国各地に顔がきくいわきの仲買人さんが、原発事故後に少なくなってしまったことです。これが、さまざまな競合する港がある中で、これから小名浜での水揚げ量を増やしていこうとするときに、問題となるとおっしゃっていました。
今後の展望として、宮田さんはこの「福島鮮魚便」をもっと多くの店舗に設けたいと考えているそうです。それにはもっと魚の量が必要ですし、課題はまだあります。ただ、こうした課題が出てくること自体、福島の魚の評価が市場で通用するまで戻ってきたということであると思います。流通の現場では、福島を復興したいというよりは、もう次の段階であるどうやって魚を確保するかという具体的な話になっているのだと実感しました。
まだまだ課題は山積みですが、福島の魚が再び全国のスーパーでみられる日は近づいているのではないでしょうか。今回あまり紹介できなかった斎藤さんから伺った「福島鮮魚便」について詳しく知りたい方は、一緒にインタビューを行った高橋くんの記事(筑波大生現地調査レポ vol.37)をご覧になってみてください!
イベント名 | 筑波大学社会学類・いわきでの調査実習 |
日程 | 2018年11月28日 |