2016年に「海と日本プロジェクト in ふくしま」がスタートして9年。地域に与えたポジティブな影響のひとつに、「海ごみ」に対する意識を高めたことが挙げられると思います。この間に行われた海ごみイベント、メディアでの取材、さらにはさまざまな啓発などを通じて、ここ福島県でも、海ごみを拾うことがかなり一般的な活動になったように感じます。
これまで、海ごみ活動の「主催者」には何度も話を伺ってきましたが、参加者にじっくりと話を聞く機会はありませんでした。活動が一般的になるのに鍵を握るのは、主催者よりも、むしろ「一般参加者」の存在です。主催するわけでなく、ひとりの参加者としてごみ拾いに参加してきた人は、どのような思いで参加してきたのか。いわき市内で50回以上ごみ拾いに参加してきたヤンヤンさん(仮名)にお話を聞きました。
-海ごみ拾いに参加したきっかけはなんですか?
ヤンヤン:ごみ拾い活動に参加したきっかけは、アクアマリンふくしまでシーラカンスの研究を続けていらっしゃった岩田雅光さんの存在が気になっていたことです。岩田さんは、シーラカンスの研究のかたわら、小名浜港など、いわき市沿岸部の海ごみ拾いにも積極的に参加されていて、岩田さんの本などを読んでいた私にとっては、岩田さんと直接お会いできる機会というか、小名浜港の未来についてお話ししたいという思いがあったんです。
-海ごみ拾いのいちばんの魅力はどんなところですか?
ヤンヤン:ごみ拾いがきっかけで、海が好きな人達と出会えることだと思います。最初は、小名浜まちづくり市民会議の主催するゴミ拾いなどに参加していたのですが、活動をするうち、勿来などほかの地域にもまちづくり団体があることを知りましたし、ごみ拾いひとつとっても、「いわきフェニックス」や「いわきサンシャイン拾活クラブ」などさまざまな団体が主催していることを知ることができました。
原発事故が起きて、処理水放出の問題や、原発そのものの是非など、人々の考え方の違いが生まれたと言われています。海ごみ拾いでも、考え方が違う人たちとお話しすることがあるのですが、自分にとっては、自分とは違う考えをする人たちの考えを知る機会になると感じていますし、考え方は違っても、いっしょにゴミを拾うという時間が、とても大事だなと感じるようになりました。
-ほかには、やってきてよかったと思うことはありますか?
ヤンヤン:たくさんあります。砂浜の歩く楽しさを感じられること、風景の一部になれること、あとは、私は夏のごみ拾いのときはアロハシャツを着るのですが、その着心地の良さを感じる時間でもあります。ほかにも、地域に少し貢献できたかもしれないと感じられる満足感とか、地域のために汗を流している人だと見てもらえる喜びもあるような気がします。
-ごみ拾いそのもののおもしろさというか、爽快さだけでなく、そこから生まれる副次的な効果も大きいんですね。
ヤンヤン:そうなんです。私にとっては、ごみ拾いは目的ではなくて手段なんです。いろんな人たちとつながる手段。だから、海ごみ拾いというのは、私にとってはソーシャルネットワーキングサービスみたいなものなんです。それに、ごみ拾いは、地域社会に対する意識が低くてもできることがあると気づかせてくれました。自分のような人間でも参加できるし、知らない土地の人たちとつながるきっかけを与えてくれます。これからも積極的に参加していきたいと思います。
こんなふうに、海ごみの魅力を語ってくれたヤンヤンさん。ヤンヤンさんのような人たちの存在が、活動を支え、少しずつ、しかし確かに、海の環境を改善しているということが感じられるインタビューでした。
今年も、福島県の沿岸部の各地でごみ拾いイベントが開催されていますし、まちのごみをなくすことが、ゴミの河川への流出を防ぎ、海ごみを減らすということが徐々に浸透し始め、海から離れた都市部でも、ごみ拾いイベントが開催されるようになっています。
ごみを拾うことで、どんなポジティブな効果が生まれているのか。ぜひ皆さんも、イベントに参加して、それを体験してみてください。海ごみ拾いから、地域に関心が生まれ、仲間や友人との関係が育まれ、海のある暮らしが、より身近になっていく。ヤンヤンさんのような方が増えていくこと。それが、私たちの願いです。